カエル探偵団って何?

カエル探偵団とは、カエルやサンショウウオを保全する際に必要となる様々な生態情報の収集や両生類調査のためのマニュアル作りなどを行っている研究者中心のボランティア組織です。

探偵団結成の背景

 1980年代から、世界中でカエルやサンショウウオが急速に減り始めています。現在までに、絶滅してしまったと思われるカエルやサンショウウオもいます。日本でも世界と同様に、カエルたちが急速に減り始めたため、野外で両生類を調査している研究者の間でも危機感を持つ人間が増えてきました。そして1997年5月、カエルやサンショウウオを研究している数名の研究者が、自分たちで何か出来ることをしようと、情報交換のためのネットワークを作ることにしました。
 ネットワークの必要性を感じたのは、研究者の間で両生類が減り始めているという話題が頻繁に出るようになったにもかかわらず、実際には、どこでどのくらいカエルが減っているとか、いつ頃始まったとか、なぜなのかとか、そうした具体的なことが十分把握されていなかったからです。
 両生類の保全を話し合う場はありませんでしたので、情報の交換や集約などの機会がなかったのです。そこで、野外で両生類の自然史を研究している人たちのネットワークを作ることになったのです。

カエル探偵団のメンバー

 カエル探偵団は、研究者主体のネットワーク組織です。しかし、研究者と言ってもプロじゃなくても構いません。極端な例では夏休みの課題研究でカエルを調べている小学生でも私たちは研究者と呼ぶことにしています。野外で生き物の色々な事を調べている人たちをみんな研究者と呼びましょうということです。2013年6月現在、団員は全国に170名ほどいますが、年齢で言うと中学生から80才を越える方までずいぶん幅広くなっています。職種も様々です。団という名前になっていますが、個人と個人を結ぶネットワークに近い存在です。すべてがボランティアですので、自分たちの仕事の合間に、フィールドに出かけてカエルやサンショウウオのレポートやどこかで見つけた資料などを寄せてくれています。そうした情報の集約にはすべてインターネットを利用しています。インターネットですとお金もそれほどかかりませんし、リアルタイムで情報の共有が出来ます。もちろん、団員の中には、インターネットは不得意な方もいますので、そういう方のためには、定期的に印刷されたニュースを発行しています(2011年6月以降ニュースは停止中)。

カエル探偵団の活動

3つのプロジェクト

 カエル探偵団は、3つの目標を持って活動しています。両生類の保全資料をデータベース化すること(Dプロジェクト)、調査のための手引き書を作ること(Sプロジェクト)、場所を決めて長期に両生類の個体数のモニタリングを行うこと(Mプロジェクト)です。
 例えば、Dプロジェクトの中の「両生類保全情報データベース」というのは、両生類の保全のための資料を収集して公開するものです。ある地域で自然調査をした際に両生類が見つかった時など、両生類の種類や生態などを知りたいことがあります。しかし、現在はそれに答えることができるだけの情報を持った書籍はほとんどありません。そこで私たちが一般の人でも利用できるように両生類の自然史に関する情報を集めておきましょうというものです。今までに団員の協力によって集められた情報の一部は、探偵団のホームページで公開されています。カエルは全種類の写真と鳴き声が収録され、オタマジャクシも数種類が発生段階ごとの写真が公開されています。
 Mプロジェクトでは、現在、日本全国アカガエル産卵前線とカエルの合唱モニタリングが稼働中です。日本全国アカガエル産卵前線は、全国のアカガエル類の初産卵日をリアルタイムで集め、インターネット上に公開するプロジェクトです。桜前線のようにアカガエルの産卵が北上するのが分かります。カエルの合唱モニタリングは、自動録音装置でカエルの鳴き声を毎晩録音し、記録として残すプロジェクトです。カエルの繁殖の様子や変化を知ることが出来ます。その他のプロジェクトの詳細は、ホームページをご覧下さい。

みんなができる範囲で

 探偵団では大学や博物館に勤める研究者から小学生まで様々な人が団員になっていますので、各自が自分で集めることができる情報を提供することになっています。学術論文を提供してくれる方もいれば、新聞の切り抜きを送ってくれる人もいます。また、ある場所でヤマカガシがモリアオガエルを食べているのを見たなどという目撃情報を提供してくれる人もいます。
 探偵団の活動は基礎的なものですので、これによって直接両生類が守れるわけではありません。しかし、地域で両生類を保全するためには役立つ情報です。そういう意味ではカエル探偵団の活動は自然保護活動というより、そのための後方支援活動と呼んだ方がよいかも知れません。

なぜ、「カエル探偵団」なの?

 カエル探偵団の大きな目的は、両生類の減少の実態把握や保全情報の蓄積・公開などですが、こうした目的であれば、「両生類保全学会」とか「両生類保護研究会」という名称でも通用すると思います。しかし、私たちはあえてそうした学会や研究会形式の組織にはしませんでした。その理由の一つは、両生類の自然史を扱う研究者はとても少ないという現状があります。研究者だけが集まっても日本全体をとてもカバーできません。また、研究会のような名前にすると、研究だけを目的とする研究者のための組織になってしまうのではないかという心配もありました。
 もっと大きな理由は、両生類が鳥や哺乳類のようにメジャーな生き物ではないということです。例えば、カエルやイモリは身近な生き物です。子どもの頃、田んぼを歩けばいくらでもいました。カブトムシやクワガタのようにあこがれの生物でもなかったと思います。極端に言えば、いるのが当たり前の生き物として扱われる傾向にあったと思います。それはカエルやイモリの良いところですけども、同時にそれは多少減少しても注目もされないし、保護するためにお金も使ってもらえないことを意味します。そういう生物を救うためには、研究者が一般の人に保全の必要性を語りかけるのではなくて、むしろいっしょになって、身近な生き物の現状を考えて貰う必要があると思ったのです。幸いなことに両生類はそうしたことが可能な生き物でもあります。
 野外の生き物を調べるのは結構大変なことです。ほ乳類は発見すること自体がたいへんですし、鳥も鳴き声だけで姿が見えないことも良くあります。ヘビは危険が伴います。ところが、カエルやサンショウウオは、素手で捕まえることが出来ます。種類もそれほど多くないのでちゃんとした手引き書さえあれば、専門家でなくてもある程度の調査が可能なのです。私たちは、専門家だけでなく、色々な人が、カエルやサンショウウオの資料を探したり、直接野外で調べたりして、集められたデータを共有し合う、そういう組織にしたかったのです。

 誰でもが参加できるためには、工夫が必要です。もし、研究会という名称にしてしまうと、一般の人からは敬遠されてしまうでしょう。カエル探偵団というと、少年探偵団を連想される方も多いのではないでしょうか。なんだかよく分からないけど、少しわくわくしてしまうそんな名前です。カエル探偵団は、両生類が減っていく謎に迫り、みんなで難問を解決する、そんな組織なのです。

この文章は、2000年9月11日から14日の4日間放送されたNHKラジオの深夜番組、ラジオ深夜便の中のナイトエッセイ「僕らはカエル探偵団」の第1夜の放送分に加筆したものです。